まきのとおる物語

ドラマチックに憧れるしがないサラリーマンの青春ストーリー

第2話「何かが変わるかもしれない土曜日?」

五日間のとても辛い日々が終わり、サラリーマンにとっては週で一番うれしい日がやってきた。そう、今日は土曜日!

 

朝七時ぐらいに窓から差し込む日差しで一度目が覚めたが、やはりそこは休日。

 

「あぁ、二度寝しよ」

 

仕事から少しだけ解放されて、いつもよりも長く寝ることがこんなに幸せに感じるのもどうかと思うが、なんとも”うふふ”な瞬間である。

 

またしばらくして二度寝から目が覚める。時計を見るともう十時近い時間になっている。三度寝するほど眠くはなかったが、起きるのはまだ面倒くさい。スマホをいじりながらベッドでごろごろする。

 

「さてと……」

 

適当なところでスマホいじりをやめ、ベッドから起き上がり、とりあえず亀山にエサをやる。

 

「亀山、今日は喫茶店でも行って昨日のことゆっくり考えるわ」

 

昨日の夜に思ったことを実行するべく、今日は時間をゆっくり使って、これからのことを考えようというのだ。

 

「……でも、その前に掃除かな」

 

なんせ一人暮らしであるから、家事はとにかく自分でしなければならない。はっきり言って面倒くさいが、一週間たまりに溜まったゴミや洗濯物が部屋中に散乱しているため、その汚さが嫌でも気になる。

 

「とりあえず、洗濯、洗濯」

 

大学生時代から一人暮らしをしているから、一人暮らし歴はかなり長い方だが、あんまり好きになれないのが洗濯だ。

 

洗濯機を回して、干して、それをたたんでしまうという三つのことをやらなきゃいけないっていうのがもう面倒くさい。

 

重い腰をゆっくりと動かし、洗濯機の中に一週間分の溜まりに溜まったシャツや下着、タオル類を思いっきり詰め込んで、洗剤を入れてスイッチオン。

 

部屋に戻りソファに腰を掛け、食パンと牛乳を飲みながら洗濯が終わるのをしばらく待つ。

 

机の上にはパソコン、スリープ状態でランプが点滅している。

 

「暇だな、洗濯終わるまでネットするか……」

 

体を起こして、電源ボタンを押す。

 

ネットを開いて、最近はやりの映画やらドラマが見れる動画配信サイトにアクセスしてみる。暇つぶしにいいかなと思って最近加入したばかりなのだ。

 

「あっ、 このドラマ懐かしい!」

 

目に留まったのは、自分が中学生ときに見たことがあるドラマ。確か、“三十歳過ぎの独身のヒロインが仕事に恋に一生懸命!!”そんな感じの内容だったはず。

 

「久しぶりに見てみよ」

 

そのドラマの第一話を見てみる。

 

「……」

 

開始数十分、ドラマにすっかりのめり込んでいる自分。

 

ドラマの中のアラサーヒロインが社会の波に流されて人生に迷っているシーンが、似たような境遇の自分に重なり、中学生のときに見たときとは全く違う面白さなのである。

 

「こりゃ、面白いわ……」

 

気がつけば第二話、第三話を見ている自分。衣服が大量に入っているせいでドコドコドコドコ轟音を響かせながら動いていた洗濯機はもうとっくに静かになっている。

 

ここまでくると、ドラマを途中で中断して洗濯物を干そうなんて気などおきない。ポテトチップスと缶ビールを取り出しひたすら続きの回を見続ける

 

いつの間にかお昼が過ぎ、時計を見ると時刻は三時になろうかというところだ。昨日の夜に思った「何かを変えなきゃ!」という思いが頭をよぎる。

 

「だけど……」

 

「もう一話見てからにするかな」

 

昨日の想いはどこへ行ってしまったのだろう? 大事なことよりも目の前にある楽しみに負けてしまう自分なのである。……というか昼間っからアルコールを飲んでいる時点で、残念ながら今日の試合は終了だ。

 

気づけば日が暮れ、一日が終わりに近づこうとしている。

 

「やっちまったか……」

 

軟体動物のようにべったりとソファにくっついてしまっている今の自分。この時間になって初めて今日の過ごし方がなんとも情けないものだったと後悔する。

 

しかしながら、もう、何か考えられるような状態でない。

 

「はぁ、寝るかな」

 

亀山にエサをやり、そのままベッドに潜り込む。

 

「考えるのは……明日にしよう……」

 

「何かが変わるかもしれなかった土曜」しかし、外にも出ず、誰とも話さず、ぐうたらして終わりという「いつも通りの土曜日」であった。