まきのとおる物語

ドラマチックに憧れるしがないサラリーマンの青春ストーリー

第9話「妄想台本」

月曜日、仕事を終えた僕はまっすぐ帰宅した。

簡単に食事を取り一息ついた後、自分が話したい会話をまとめようと思い、早速『自分専用の台本』を作りに入る。

「さて、どんなシーンを作ろうか……」

外国人と友達感覚で話したい。そのために話したい会話を先にまとめておくということが今回の「妄想台本」のコンセプトだが、自分には外国人の友達など一人もはいない状況。となると、やはり「出会い」のシーンから書き始めるのが妥当だろうか。

「相手は男性にしようか、それとも女性にしようか……」

少し迷ったが、昨夜のジョーブラックのことを思い出して外国人の女性に即決する。

「出会う場所は……」

頭の中を妄想でフル回転させる。

「おしゃれなコーヒーショップにしよう! そして、出会いのタイミングは……」

はっきり言って、実際には起こりえないシーン、しかも外国人女性との出会いシーンをを二十六歳にもなる成人男性が真剣に「妄想」している姿というのは、少々……いや、かなり気味が悪いが、そこは目をつぶって頂いてもう少しだけお付き合い願たいと思う。

以下全て妄想。

タイトル『妄想台本』〜コーヒーショップでの出会い〜

場所は、どこかのおしゃれなコーヒーショップ。僕は一人でコーヒーを飲んでいる。しばらくする欧米人らしき女性が入ってきて、僕の隣の席に座る。

僕:(おっ、隣にかわいい外国人が座った……めっちゃ緊張する~)

若干ソワソワする僕。となりにいる外国人女性は携帯をいじりながら、優雅にコーヒーを飲んでいる。

僕:(なんともまぁ、コーヒーがお似合いなこと……)

そんなことを思っていると……。

どういうわけか突然! 

その外国人女性が手にしているコーヒーカップが彼女の手からするりと滑り落ちてしまい、テーブルの上に落ちた衝撃でカップの中のコーヒーが自分に飛び散る!

僕:「熱っ!!」

コーヒーの熱さに思わず声を出してしまう、そして突然のことにまだ状況を理解していない外国人女性、ものすごく慌てた表情をしている。

外国人女性:「あっ!! ごめんなさい、ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」

僕は熱いのをなんとか我慢して、この状況をやり過ごそうとする。

僕:「大丈夫です! 大丈夫です!! 大したことないですからっ!」

僕:(めちゃくちゃ熱いけど~)

あたふたしている外国人女性を横目で気にしつつ、僕のシャツにかかった飛び散ったコーヒーをティッシュでひたすら拭き続ける。

僕:(あ~、拭いただけじゃこのシミは消えないだろなぁ……)

僕がティッシュでぱたぱたと服を拭いている光景を心配そうに見つめる彼女。

外国人女性:「本当に申し訳ありませんでした……。あの……クリーニング代ぐらいは私に出させて頂けませんか?」

彼女に話しかけられて少しビックリする僕。

僕:「あ、大丈夫ですから、ほんとに、全然気にしないで下さい」

外国人女性:「いや、ですがそれでは少し……悪いのは私ですし……」

僕:「いやいや、どうせ安物ですから。本当に気にしないで大丈夫ですよ」

大して高くもない洋服のためにクリーニング代をもらうのもどうかと思って断ったが、彼女はまだ気まずい様子。

外国人女性「それなら……飲み物のおかわりはどうですか? ほらっ、私のコーヒーも無くなっちゃいましたし」

彼女は少し照れながら答える。僕もそれぐらいならとうなづく。

僕:「じゃあ、お言葉に甘えて」

外国人女性:「少し待ってて下さいね、買ってきますから。あっ、ちなみに何を飲まれますか?」

コーヒーにしようかと迷ったが、二杯連続コーヒーというのも少々きつかったので、ここはカフェラテにしといた。彼女は席を立ち、レジカウンターに飲み物を買いにいく。

彼女が飲み物を買いに行っている間、まさかの事態いろいろと考えてしまう僕。

僕:(いやぁ、これはちょっとまずいなぁ……)

僕:(おかわりをもらうのはいいけど、その後どういう展開になるのかが想像がつかない……)

僕:(さすがに、今この場を立ち去るってのも気まずいし……どうしようかなぁ)

そんなことを考えていると、飲み物を持った彼女が笑みを浮かべながらやってくる。

外国人女性:「はい、カフェラテです。さっきは本当にすみませんでした」

僕は考えがまとまらないまま、彼女から飲み物を受け取りお礼を言う。

僕:「あっ、すみません。わざわざありがとうございます。」

彼女は僕の隣の席に座り、淹れたてのコーヒーをすすりながら若干ソワソワしている様子である。

二人の間に少し気まずい空気が流れる。

僕:(やばい! やばすぎる!! 飲み物をもらった以上、さすがにすぐには帰れないし…… 本当にどうする自分!?)

カフェラテをひたすら飲み続ける僕……。これ以上の沈黙はもう耐えられない。何かアクションを起こさないと!

僕:(えーい! こうなったら、いくしかない!!)

僕は思い切って彼女に声をかけてみた。